• 二日目 2000年3月9日(水)快晴

    ◎たたき起こされる
     目がさめた。強い風がテントに容赦なくふきつけ、大木を揺さぶり、 凄まじい音がテントの外、みえないどこかからきこえてくる。音圧レベルにすればたいしたことなく、 ナパームデスのようにギネス級の数値が得られるわけではないが、 相手は自然であり。その存在感は巨漢ベジタリアン(?)ベーシストがちっぽけに思えるほどに大きい。 ヤツラが荒れ狂えば、ちっぽけなテント&人ひとりなどひとたまりもないのだ。だからこわい。
     風はますます勢いづく。テントの四方は浮き上がり、骨組みはひしゃげ、風上のテント壁布が顔をひっぱたく。 直流成分のみならまだいいが、強さがかわれば向きも変わる、踏んだり蹴ったりだ。 最近、体重が増え体重計の針は68kg付近をうろつくが、そのおかげでテントごと飛ばされずにすんだ。 最近ふえたきしゃな若者だと、塵のように舞い上がって傍を流れる僧都川に入水したことだろう。
     テントの浮き上がりは不安感をピークへとみちびくため、それをさけようと三隅、 いや四隅にタンクバックを置くが風の力はそれを取り払うに十分なものであった。 テント内での体の位置、荷物の置き方などを工夫し、 おそらく最善と思われる配置におさまるが、それはあくまで最善、十分には程遠い。 轟音にはじきになれたが、テントの変形にはまいった。 映画で天井が主人公の立つ床に迫ったりするシーンがあるが、それを彷彿とさせる、 といえば大げさか。
     寝ないわけにもいかないので、がんばって寝ようとする。........。気が付くと目がさめる。 寝ることはできるがやはり「たたき起こされる」のだ。埒があかない。 前日寝付いたのが午後10時過ぎで、最初に目がさめたのが午前3時頃。 この時点で5時間程度の睡眠を確保できていたこと、寒さがそれほどでもなかったこと、 強いのは風だけで雨は降らなかったことが幸いだった。 以前、鳥取に研究室の友人とでかけたときは朝4時頃に雨に降られつらかった。

    ◎出発準備
     不安感にさいなまれながらも朝をむかえた。時刻は午前6時過ぎ、風は終息傾向にあると思われるがしかし、 人間のおもりなしではテントをかるく飛ばすほどだ。テントの中に荷物をおもりがわりに残してポールを外し、 風で浮き上がるのを必死に押さえ付けながらテントをたたむ。こういうときは、2人以上いれば楽だろうな、 と1人で思った。
     たたみ終わって荷物を整理した後に、歯を磨きながら昨晩は闇の中にそっと息をひそめていた周囲の風景を目にする。 川の向こうを県道が走っており、町に通勤すると思われる乗用車が時折通過する。風か強いほかはいたってすがすがしい。 幼少の頃、キャンプでむかえた朝と同じ感覚を思い起こす。ふと顎をあげると、針葉樹がそびえており、 こもれびがなんともいえず爽やかである。もう最高。四国最高。テントで旅するよろこび、 そして生きるよろこびを感じた。
     きれいに整備されたトイレに行き、バイクを置いた駐車場まで3往復ぐらいして荷物を運び、にづくり完了。 昨日の残りのお茶をタンクバックからとりだし、口に含む。温泉の館内ではすでに清掃など準備をはじめているのがみえる。 他の客もいないので、これからのルートを検討しながら暖気運転。いろいろ案じたがまとまらず、とにかく足摺岬に行き、 その後は四国カルストと四万十川をなんとか料理しようと考えた。

    ◎山出温泉キャンプ場〜城辺町〜R56〜高知県宿毛市
     いよいよ出発。暖気運転は不十分だが、 城辺町中心部までの県道46は下りオンリーなのでエンジン負荷も少なかろうと判断、 そのまま出発。ちんたら下っているとミラーに地元車のすがたがチラリ。ペースをあげる。エンジンの暖気はともかく、 タイアがあたたまっていないので曲がりにくいが平気。昨晩の上りではよくわからなかったが、 実は結構走って楽しい道である。交通量が少ないのがほんとうにいい。たまに追い付いても白破線でばっちりパス。 朝から快調なのは精神的によい。
     やがてR56に乗っかる。通勤時間帯だが、福岡にくらべれば激少。3台ぐらい連なったが、爽快なペースを保つ。 信号はほとんどひっかからない。のびのび走る感じで宿毛市へ。「すくも」と読む。 ここから足摺岬方面へはR321に乗り換え。

    ◎R321(宿毛市〜大月町〜土佐清水市)
     R321前半は緩やかなカーブと直線そしてたまに中速コーナーからなる快走路。 これといって特色があるわけではないが、ダンゴ状態のクルマを信号なりで一度パスすればしばらくはマイペースで走れる。 大月町半ばをすぎれば、さらに交通量は減る。しかも幅の広い2車線路で緩やかなカーブがと直線が交互にあらわれる具合いで、 気負わずハイペースを持続できる。
     大月町と土佐清水市の境あたりにくると、右手方向に果てしない海がひろがる。ここはサニーロード。 太陽が明るく進路を照らす。ひたすすめ。平日の午前中だからかもしれないが、本当に交通量が少ない。 もちろんあたりまえに白破線。適度にカーブや勾配があるから退屈することもないし、景色はこれぞ太平洋、 空気もうまい。かなり快適に走ることができた。沿岸には小島が点在するポイントもあり、 記念撮影しようかともおもうが、この快調な走りこそが他に得がたいものである気がして、 停車する気にはなれなかった。1日目にも書いたように、 周囲の雰囲気を感じながら空間を移動するのはオートバイならではの魅力である。
     途中、「一日干し」と看板を掲げて、実際に道ばたでするめを干しているのを直接売っている屋台があった。 土産にいいかな、ともおもったが旅があと何日つづくのか皆目見当がつかないのでやめにしておいた。 今考えれば、一切れ味見ぐらいはしてもよかったかな、とおもう。
     足摺港辺りに近づくとさすがに生活空間がひろがり、商店街などが現われ、交通量もふえる。 これらは当然地元車で一過性のものであるから気にしない。のんびり走る。高校などもあり、 制服姿の高校生がういういしい。そういえば、サニーロードでは、 原付きスクーターにまたがり5〜6台で集団登校する高校生達を何度か追い越した。 必然にせまられてのバイク通学であろうが、 高校時代に校則でバイクにのれなかった僕をちょっぴりうらやましい気分にさせる。

    ◎足摺スカイライン
     土佐清水市の中心部を抜けると足摺岬に向けての3ルートが出現する。海沿いを西まわりするルート、 東まわりするルート、そして半島の尾根沿いをうねる足摺スカイラインである。 しばらく前まで有料道路だった足摺スカイラインは、なるほど舗装状態がよい。 中速コーナーとタイトなコーナーが次々現われ、激しいアップダウン。景色は木々がほとんどで、 たまに海が見える。クルマの走り屋がやってくるのか、ところどころにブラックマークがなまなましい。 走行中も数台の、あきらかに一般とはペースの違う何台かの若者クルマとすれ違った。
     僕の方はというと、前半は調子よく走っていたのだが、途中から2台の軽自動車に行く手を阻まれ、 あえなくペースダウン。ブラインドコーナーが多く、直線部もあるが短いので、 そこそこペースで連なる2台を安全にパスできる場面はなかった。結局楽しめたのは前半4分の1ぐらいか。 前走車さえいなければ、中低速コーナー好きにはおすすめできるワインディングである。

    ◎足摺岬
     スカイライン終点から海沿いの県道27にうつり少し走ると「足摺岬」の標識が出現。 あまり広くはない駐車場は4輪でほぼ満車状態。おじさん、おばさん達だけでなく、 春休みの大学生風の若者の姿も結構多かった。駐車場の端にバイク一台やっと停めることができるスペースがあり、 するするっと入り停車。偶然だが、隣にはシルバーのFIRE-STORMが駐車してあった。 ツーリングネットを使って少しの荷物が積んである。僕は同じバイク乗りだからといって、 気軽に話しかける方ではないが、他人のバイクにこれほど接近したのは今回のツーリングでは初であったから、 いったいどんな人が乗っているんだろう、ぐらいの興味はわいた。とりあえず傍にはいそうにない。 散歩にでもいっているのだろう。
     ところで、フルフェイスヘルメットをかぶってバイクに乗る人以外はわからないかもしれないが、 寒い時期に長時間バイクに乗り続けると、鼻の下は鼻水でビチャビチャになるものである。 これは決してアマチュアライダーに限ったことではなく、 GPライダーやF1ドライバーも走行後には鼻水でいっぱいだ。 朝出発してからヘルメットを脱ぐのは足摺岬が初めてだったので、とうぜん鼻の下は鼻水で汚れている。 普段なら気にしないが、ここは観光地ということもあって人が大勢。しかも僕が駐車したそばには、 大学生風の男5人と、ダブルデート中とおもわれる大学生風アベック2組がいたので、 かっこよくメットを脱いだあとの鼻水の処理にこまった。結局こそっと脱いで、 すばやくタンクバックからタオルを取りだし、みられないように鼻をぬぐった。 誰もみていないのかもしれないけど、これぐらいなら自意識過剰とはいわぬだろう。
     息つく暇もなくタンクバックからカメラやらを取り出していると、 ダブルデート大学生のなかの女の子から、写真をとってくれ、と頼まれた。 着膨れして、伸びた髪にはヘルメットぐせというお世辞にも小綺麗とはいえない一ツーリングライダーに 気軽にスナップを依頼してくれるとは、なんだかうれしいものである。 レンズ付フィルムを渡され、足摺岬の石碑をバックに一枚パシャ。 がらにもなく「もっとよったほうがいいですよ〜♪」などとアドバイスしてしまった。
     その後、ソロツーリングの僕は一人カメラの入ったタンクバッグをもって展望台へ。 亜熱帯風の木々がトンネルをつくる遊歩道をしばらく歩くと展望台に到着。岬と灯台がよくみえる。 やはり海はきれいだ。浅瀬部分はエメラルド色で澄みきっている。足摺岬 ひょっとしたらエメラルドの色を勘違いしているかも知れないのが。この日の太平洋はおだやか。 荒波が岬にドバーンと打ち寄せる様はおがめなかったが、よしとしよう。のんびりしていると、 先ほどのダブルデートアベックが展望台へ来た。楽しそうだ。女の子の方が積極的な様子。なるほど。
     次に灯台の所まで歩いてみた。こちらは人が少ない。いってみると回りを木々に囲まれ、 展望には恵まれていなかったが、この灯台のあかりをここに来て守っている人がいるのだと実感することができて良い。 そばには、弘法大師が手でひっかいてなんとかと書いた、という岩があった。 本当だとしても爪でひっかいた程度では風化するのだろう、見い出せなかった。 しかし、いくらか賽銭が放られていてありがたい気分になれる。
     遊歩道をひきあげ、トイレをすませてバイクへ。タンクバッグを固定し、これからのルートを検討する。 とりあえず、四万十川の河口がある中村市まで半島の東側を経由していくことにする。 このとき、隣にとまっているのFIRE-STORMの乗り手がバイクのところに戻ってきた。 歳は20代後半ぐらいか。ビシッと皮ジャンをきこみ、皮パンを履いている。 顔は知的な好青年である。お互いバイク乗り同士、そこにいるだけでなんとなく意識しあっているのがわかるが、 どうしても「たまたま同じバイク乗りなだけ」と冷めた見方をしてしまい、話しかけたりすることはなかった。 ここで「同じバイク乗り、仲間意識あるよね」と信じて思いきって話しかけることができれば、 面白い出会いがあったりするのだろう。
     直接会話はしないが、バイクはチェックする。シルバーの国内ノーマルFIRE-STORM、タンクにはヘコミがあり、 他の部分も転倒傷がおおい。攻めるタイプなのか、VTR乗りのジムカーナタイプか、 それとも単に下手なのか。服装からして、なんだかベテランっぽいからなぁ.....。 考えることは楽しいが、結局不毛なのは毎度のことか。
     そそくさとその場を立ち去ることにした。取り回しの後、エンジンに火をいれ、一息ついて出発。

    ◎足摺岬〜中村市
     足摺岬から東側の県道27を走る。やはり亜熱帯風の木々のなかを走る。一車線。 なんだかなつかしい気がしたのだが、思い起こせば似た風景が福岡市の能古島にある。 能古島の東側、奥の方の道と良く似ている。狭いが走って楽しかった。 すぐにファミリーカー2台に追い付いた。たらたら走る。しばらく走っていると、 ミラーに銀色のオートバイが写った。先ほどのFIRE-STORMだろう。 おたがいムズムズしているように思う。やがて長い直線白破線が出現、 ファミリーカーを手を挙げてパス、アクセルを開けて束縛からGSFを解き放つ。 FIRE-STORM(以後VTR)もこれに続いたようだ。ここからは単純なカーブが 連続する海岸線沿いの白破線2車線路、快走路だ。こちらは750ccネイキッド、 あちらはホンダのカウルつき1000cc。分が悪い。少しペースをあげ3桁台にのせた ぐらいではあまりはなれてくれない。だからまじめにとばしたら、彼はミラーから消えた。 社会人は精神的リミッターがかかるのだろう。僕もはやく大人にならなければ。
     R321との交差点で信号が赤になったのでブレーキ。ニュートラルに入れ、 信号待ちしていると後ろからVTRがやってきた。こういう時間はなんだか気まずい。 シグナルグランプリになるのかな〜、と実は半分楽しみにしていたが、 信号が変わってみると僕は右、VTRは左へと進路を異にした。お気をつけて。
     ここからはR321で中村市を目指す。しばらくは黒シビックと2台でつるんでいたが、 徐々に視界にクルマが増える。やがてだんごが形成され、はては数珠つなぎへと発展した。 ゆっくり走りたい人は、ゆずってくれたらな、と思う。傲慢だろうか。
     だらだら走っていると、銀のカウリングをまとったバイクがミラーに映った。 先ほどの好青年VTRか?しかし、前が詰まっているのにやたらと車間を詰めてくる。 好青年はこんなアホなことはしないだろう。しばらくすると、 背後からVツインのダダダーっという加速音がきこえ、右脇を銀のVTRが追い越していった。 数珠つなぎでの黄車線カーブをガチガチのフォームで無理に追い越すVTRをみながら、 あいつはいつか死ぬな、と思った。ヘルメットが誰かのレプリカっぽく、 先ほどの好青年ではないと確認できた。よかった。下品なVTR乗りを撃沈したかったが、 バイク乗りの品位をこれ以上さげぬためにもおとなしく走った。
     あいかわらずだらだらペースで走っていると、大きな川の河口付近の土手を走るようになった。 土手の感じは下流然としているが、下流のわりに水が澄んでいる。えらくきれいだ。 芸工大生が川下りをする那珂川の水を福岡市民が飲んでいるのが信じられないぐらいに水が美しい。 もしやこれが、と思いきや、まさにこれが四万十川であった。最後の清流、四万十川。なるほどなるほど。 源流にもいきたかったので、「源流行くぞー」と気合いが入る。
     川沿いを走っていると中村市街地に到着。道ばたでこれからのルートを決める。 検討の結果、まず最短距離で四国カルストを目指し、その後四万十川源流に行きそれから川沿いに 河口まで下ってくるというプランに決定。時間的に心配だが、とりあえずそうした。

    ◎中村市〜R439
     地図を見ると、中村市から四国カルストへの最短ルートはまずR439から始まることが判明、 R439を探す。街を標識をたよりにうろうろする。標識に左折すればR439とあったが、 はたしてその地点で左折していいものかまよった。なぜなら、左折した先は商店街だったからである。 国道の始点が商店街というのはなんか受け入れがたかったので、通りすぎた。 しかし、後に本当にあの商店街がR439の始点であることが判明。迂回して商店街に入ると、 確かに「R439」の標識があるので一安心。ひたすすむ。
     商店街をぬけると、快適な2車線路。ペースもあがる。 R439=狭路という式が頭中にできあがってできあがっていたため、拍子抜けするほどだ。 いたって快適。道ばたに、「災害復旧工事による通行止めのお知らせ」みたいなものが立っていたが、 気にしない。ときどき前走車もあるし、地元車が行くということはすなわち通行可である、 と勝手に認識したのだ。
     順調に飛ばしていると、前に2台のクルマが停車している。 傍には道路工事現場の交通整理のお兄さんが立っていたので、きっと片側交互通行なんだろうな、 とおもい列の先頭にスルリ。しばらく待つがいっこうに「進め」の手信号はでない。5分経過、 10分経過。どのクルマもとっくにアイドリングストップしているので、静か。 少し先の道路右手の急斜面で、命綱をつけた作業員の方がなにやら作業している。 今考えれば、作業により道路への落石の危険性があるので、作業中は通行できなかったのだろう。 このような箇所は周辺にいくつかあり、あらかじめ通行時間・作業時間がタイムテーブル化されているのである。 地元の人はそれを知ってて慣れっこだから、数十分の通行止めでも平気でまてるのだ。 待たされたとしても、迂回するよりは早く目的地に到達するのだろう。 そうとも知らずにぼんやり時を過ごしていると、後ろのクルマからおじさんが降りてきて、 交通整理のおにいちゃんと会話をはじめた。「まだなの〜?」。その答えをはっきり覚えていないが、 あと何十分かかかるみたいなことを言っていたようにおもう。とても待つ気にはなれなかったので、 中村市街まで引き返し、R441に乗ることで迂回することにした。この迂回路だと、 いきなり四万十川沿いを走ることになり、当初のプランにそぐわないがよしとした。
     一人エンジンを始動し、Uターンする。このとき、「こいつは通行止めを突破する気なのか!?」 と思われないか不安だった。後川沿いをひた下る。数台の地元車とすれ違う。 みな通行制限をわかったうえで、あえていくのだろう。

    ◎R441(四万十川沿い・沈下橋)〜R381〜大正町
     市街地まで戻り、R441へ。交通量は少なく、快走。左手には四万十川。水が信じられない色をしている。 中流域で、川幅も水量もそれなりにあるのに、これほど美しい色をした川はかつて巡り合ったことがなかった。 四万十川の沈下橋をご存じだろうか。川の流れが多くなると水面下にもぐってしまう橋のことであり、 水位が多くなければ実際にわたることができる。ガードレールなどない橋で、 バイクでわたるのは少しおっかないかも知れない。最初に現われた沈下橋が最も素晴らしかった。 周囲の景観とあわせて、見事な味わいをかもしだしている。きっと上流にもこのように素晴らしい沈下橋が あるだろうと思い、写真を撮らなかったのが残念である。感動できるシーンに出会ったら、 その時がシャッターチャンスであると思い知らされた。
     しばらく行くと、R381に乗り換え。山中ではあるが、四万十川沿いを幅の広い白破線2車線路が延々と続く。 R381が高速道路と化す。途中にはライダーズイン四万十があった。高知県には、 行政が進めるバイク乗り専用の宿泊施設が何カ所か存在する。一般のライダーズハウスよりは設備が豪華で、 しかもそれぞれのバイクに車庫と洗車場が確保されているという。 興味はあるが、一泊3000円後半するので貧乏ツーリングライダーには手が届かない。 九州には1000円程で利用できる雑魚寝ライダーズハウスをいくつか知っているが、 これがあちこちにあればありがたいと思う。
     なお、このあたりまでくると、四万十川も上流域に近くなり、荒っぽい岩などで険しい姿を見せるようになる。 上流に上るに従い当然水量は減っていくのだが、そうすると確かに水はきれいなのだが、どこでも見れる風景になってしまった。 博学な人は、そこに四万十ならではの価値を見い出すのかもしれないが、僕にはそうもいかない。 四万十川らしい風景は、中流域、具体的には西土佐村R441沿い辺りで楽しめると思う。 あれだけの水量なのに、水の色は渓流クラス。渓流よりは水位があるから、さらに深みのある色になる。 う〜ん、うまく言えない。色の表現、誰か教えてくれないか。
    ◎大正町〜R439〜東津野村
     災害復旧工事のため、一部通行が制限されていたR439。制限箇所を迂回して、いよいよR439。 地元の人は、R439を「与作(よさく)」と呼ぶらしい。僕にもこのいいまわしがしみついてしまった。 気付けば「R439」を「アールよさく」と頭中でとなえる自分がそこにいるのだ。
     R381からR439に左折で入ってからしばらくは広くきれいな2車線路だった。 ごく最近に整備されたばかりのようだった。しかし、じきに一車線路となる。災害復旧工事箇所もあったが、 運良く制限時間帯外であった。地元車2台にはさまれて梼原川沿いをのんびり走る。 古味野々というところで、先頭のクルマにつられてしまい橋を渡ってしまった。赤い橋だった。 非常に高いところにかかる橋で、下を流れる川もきれいだったから記念撮影。 谷あいを吹きぬける風がビックリするほど強かった。橋をわたり切ると、いきなりダート。 津賀ダムの管理事務所があらわれ、行き止まり。いま地図を見返すと行き止まりではないが、そのときは行き止まりだった。 よって引き返す。
     気を取り直してR439をひた進む。ほとんどは狭い1車線路で、ところどころに小規模の落石、路面の荒れが存在する。 他車がいないので、それでもそこそこのペースは保てた。もちろん状況が良いとはいえないが、 コアな国道マニアが好むような絶望的3桁国道をイメージしていたので、それよりはかなりましである。 ところどころは2車線への拡張が進んでいたのが印象的であった。地元住民の切な願いなのかどうかはわからないが、 2車線化によってその土地の生活ペースにずれが生じるのではとよけいな心配をする。 しかし、長い。地図で見た印象よりも時間がかかる。嫌いじゃないから黙々と走る。
     やがて梼原町(本当はもっと難しい字)に入ると、県道26の分岐が現われる。本当は県道の方に行きたかったが、 災害復旧のため通行止め。やむなくR439を寡黙に走る。ここからは北川沿い。狭いのは一緒である。 それ以外の記憶がないのが残念だ。やがて東津野村の小さな集落に到着し、R197がすぐそばであることを知る。

    ◎R197〜東津野城川林道〜四国カルスト〜地芳峠
     R439からR197へ。ひろい2車線路である。普段だったらおもむろに加速していくが、この時は割とおとなしく走った。 R439で他車がいなかったので、自分なりのペースを保てたためにストレスなく走りきったためだろう。しかし広い道は楽だ。 のんびり。
     さて、みなさんは旅行先で何を食されるだろうか?ガイドブックにはいろいろと魅力的なお店が紹介されているので、 そこでその土地の味を堪能される方が大勢だろう。僕はどうするかというと、日帰りならば何も食べないことも多いが、 食べるときはコンビニ弁当を景色のきれいなところで食べるのが常である。誰もいない静かなところで一人ポツンと楽しむのである。 風景に心洗われれば、なんだってうまい。解放感が違う。最善を追求すれば、 ていねいにつくられた手作り弁当を大自然のなかでほおばることにいきつくだろうが........。 とにかく、僕は弁当派。もちろん経済的な理由というのも大である。 贅沢な旅は、自費で毎日トンカツ屋に行けるぐらい稼ぐようになってからすればよい。
     そんなわけで、多少腹も減ったので弁当屋を探す。昨日はブランチがパンだったが、 コンビニの駐車場で味気なく食べたわけで、今日こそは大自然(四国カルスト)のもとで弁当を!!と意気込む。 しかし、パッと見、R197沿いにコンビニはない。とりあえず、ちょっと先にある「道の駅ゆすはら」を目指す。 着いたはいいが、あるのは場違いな西洋風レストランと土産物屋だけで、弁当らしきものはみあたらなかった。 やむなくトイレだけを済ませ、引き返す。
     四国カルストへ行くには、ツーリングマップルおすすめルートの東津野城川林道を利用することにする。 さぞかし良い道だろう、と期待に胸膨らます。昨日のように、ガス欠の心配をしながら走りたくはなかったので、 林道入り口付近の日石でレギュラー満タン。そして林道へ。
     林道とはいっても、広い白破線2車線路。かなり良い道だ。クルマの走り屋が多いのか、ブラックマークが多数。 入り口付近の道路情報電光掲示板に、「積雪(残雪だったかな?)有り・要チェーン」みたいなことが表示されていたのが多少気がかり。
     進めば進むほど良い道になる。不快なブラックマークもなぜかすぐに見られなくなった。 地図をみてもらえばわかるが、カーブが結構複雑に組み合わさっている。 しかし、広い白破線2車線路・路面状態問題なしなのでメリハリついた走りを安全にダイナミックに楽しめる。 これでヘアピン+もう少し複雑なコーナーがところどころにあればいうことなしだ。周辺の木々はそれほど背が高くなく、 遠くの山々など風景もよろしい。過激な複合コーナーがあまりないのが物足りない気もするが、4輪普通車でガーッと流すのには最適。 いつもそうかはわからないが、この時は交通量が激少でうれしかった。
     林道をグイグイ進むに従い、標高も高くなる。気温は下がり、寒さが身にしみる。道ばたには残雪が結構残る。 日陰部分やトンネル出入り口には道路上でもシャーベット状の雪が広がっていた。ニーグリップをしっかりして慎重に通り抜ける。 最後に直線的な登りを一気にかけあがると、国民宿舎天狗荘にたどり着く。その一歩手前で、東側を展望して記念撮影。 山々がどこまでも連なる。
    天狗荘そばからの風景  天狗荘から標識に従えば、四国カルストへの1.5車線が始まる。最初のトンネルは、内部の方まで雪があり、慎重に走った。 そこさえをすぎれば、道路上にもはや雪はなく安全。五段高原とよばれる標高の高い高原(海抜1500m近い)の尾根上に道がのびる。 写真で見る通りのカルストがあじわえる。ヘルメットをとり、グローブをはずして記念撮影。他にクルマなどほとんどいないので、 ほめられたことではないがノーヘル・ノーグローブで駆け足程度にのんびりバイクを走らせる。珊瑚の残骸自体は、 おもったよりも数が少なかった。山口の秋吉台の方がそれらしいかもしれない。もちろん楽しめたのだが、残念だったのは季節柄草が枯れていたこと、 牛の放牧がされていなかったこと。暖かくなって、草の緑がきれいな季節にもう一度訪れてみたいものだ。 風力発電のためと思われる風車は迫力があった。
    カルスト風車と  観光客はほとんどいなかった。ワゴン車にのった若い2人、近所の宿に泊っているのだろうと思われる10人ぐらいの若者、 自転車ツーリングの若者6〜7人ぐらいだったと思う。10人ぐらいの集団は、立ち入り禁止の柵を越えてサンゴのうえではしゃいでいた。 集団になると、抑制がきかないのは困ったものだ。それにしても、こんなところまで自転車でやってくるサイクリストには感心する。 バイクはアクセルさえひねれば道有るところどこでもいけるけど、自転車は自分の脚力だけが頼り。 目的地での風景は、きっとバイク乗りとはくらべものにならない感慨をもって身に染み入ることだろう。
     尾根沿いをのんびり走って地芳峠にさしかかるところでヘルメットとグローブを着け、模範ライダーの仮面をかぶる。 峠を少しくだったところで、これからのルートを考えるが、結局来た道を引き返してR197に戻ることにした。カルスト

    ◎地芳峠〜天狗荘〜東津野城川林道〜R197
     今度は来た道を下るのみ。林道については、上りのほうがおもしろかったかとおもう。あまり覚えてない。 太陽がだんだん低くなっていくので、四万十川源流へと気持が焦る。

    ◎R197〜県道378〜四万十川源流を目指す
     やはりR197は快走路だと感じる。けっこう勾配のある下りをどのクルマもそこそこのペースで走ってくれる。 左手に四万十源流への県道378を探しつつ下るが、どうやら見落としてしまったようで道の駅布施ヶ坂でUターンする。 慎重に走ると、県道378への道発見。船戸という地名の静かな集落を申し訳なく走る。
     四万十川源流をもつことは村の売りであるらしく、源流への方向指示が手作りの看板でなされていたのでそれにしたがう。 グイグイ上っていくと、途中からかなり狭い道になった。源流へ向かうにあたっての演出がわりになる。 地図で見ると、何の苦もなく源流にたどり着けそうにみえるのだが、実際の道は細くクネッていて、けっこう時間がかかる。 ついには、結構な上り勾配をもつダートになってしまった。あと何kmという表示もないので、一抹の不安を覚えるが、 源流に行くことは今回の四国ツーリングの大きな目的のひとつであったから、 ひきかえすことができずにがんばって進んだ。ダートを走ること自体は、ゆっくりでいいわけだから別に苦ではないが、 ストロークの少ないオンロード車にとってはかなりかわいそうな道である。ごめんね、ごめんね、 そう思いながらそっとアクセルをあててやる。タンクバックには精密機器カメラ(完全機械式)も入っているし、精神的にまいった。 オフ車ならさぞかし颯爽と駈けあがることだろう。オフ車もいいかな、とちょっぴり弱音をはく。
     まだか、まだかと念じながらようやく石碑らしきものを発見。「四万十川源流の碑」とある。四万十石碑 ついにやったか!と思いきや、その傍らには「四万十川源流点・登山口・25分」との案内板が立っているではないか。 そう、真の源流点にたどり着くには、さらにてくてく25分歩く必要があるのだ。知らなかった。 時間があれば、決行したが、残念ながらもう日が暮れはじめていた。 懐中電灯も持たずにひとり夜の山をさまようのは危険なので、すっぱりあきらめることにした。 幸いそばの岩の間をチロチロと水が流れていたので、これを片手ですくって飲んだ。 今この瞬間に自分より上流側に人がいないとおもうとなんだかすごい。 味は、少し刺激があったこと以外よく覚えていない。もっとよく味わっておけばよかったと思う。
     薄ぐらいなか、ASA100でスナップし、来た道を下る。いつつくのかわからなかった上りよりも楽か、 と期待したが、全然そんなことはなくなかなか舗装路にはたどりつけなかった。 ごめんね、ごめんね、GSF。そういえば、このGSFを買う前、買ったら名前をつけようと思っていたのに付けずじまいだ。 結局たまに君付け、「GSF君」などと呼称する程度。大人げない名前をつけて失笑をかうことに気付かないよりましである。
     このダート路、他のバイクより少なく出るオドメーターで確認したところ片道4kmほどであった。 今あらためて地図をよくよくみてみれば、きちんとダート区間が色づけされていることに気付くが、 地図上では2kmもないようにみえる。ただ、実際にはかなり複雑にくねっているから実走距離とは大きな差がでるのだろう。 おそるべし四国ロード。地図ではあっというまなのに、実際はなかなか到達しないと、道を間違っていないかと不安になるものだ。

    ◎東津野村〜R197〜須崎市〜中村市
     県道378を走り終え、R197に到達する頃には日もくれて暗くなっていた。 幅の広い下りの白破線2車線路を須崎市に向かってひた走る。当初の予定では、 四万十川源流から河口まで川の表情の変化をたのしみながら川沿いを下るつもりであったが、 源流付近で既に空が暗くなってしまったのでできなかった。残念ではあるが、 四万十川のみどころは、昼間走った中流域〜下流域にあると勝手に決めつけ納得する。  快調ペースで須崎市に到着。この日はまだなにも食べていない。出発時に前日の残りのお茶を口に含んだのみである。 須崎市に着けばなにかおいしいものにありつけるかと期待したが、R197の終点付近にはそういった店がなにもなかった。 もっと市街の方にいけばきっとあったろうに、なにを血迷ったか昼間行った中村市にR56で引き返すことにした。 ツーリングマップル上で須崎市には温泉マークがないのに対し、中村市には「安並温泉」と記してあったからかもしれない。 道路標識を見ると「中村80km」とある。すいてれば1時間ぐらいでつくかな、と思い中村市目指して走る。
     夜のR56はなかなか殺気立っていた。だんご状態ではあるが、みなさん結構飛ばす。 こういうのに巻き込まれると楽しい。たまに登坂車線があるのでそれを利用してどんどんパス。 750ccあると荷物満載でも楽勝。逆に750ccあれば直線以外では十分かな、とも思える。 ちょうどいい排気量だ。だんごの先頭は黒の新型シルビア。トンネル内で本気の加速をみせてくれた。 その後シルビアは左折したので、自分のペースで走れるようになった。暗いので景色こそ見えないが、 路面がいいので楽しい。佐賀町の半ばぐらいからはしばらくトラックの後ろを追走。 土佐湾がみえるころになると、白破線のストレートがあらわれるのでトラックをパス。 パスしてもしばらくすれば別のクルマが現れるので、たぶんガソリンの無駄なのだろうけど。  さすがに1時間ぐらいでは中村市に到達することはむりだった。いいかげん腹も減るが、 食べるための店がない。ひもじい思いをしながらR56を走る。
     やがて、国道沿いにポツポツと民家や商店があらわれ、中村市街に到着。 なにを食べたらいいかよくわからなかったので、とりあえず看板の見えたお好み焼き屋に入った。

    ◎お好み焼き屋で食事
     小鉄というお好み焼き屋に入る。閉店が23時ぐらいだっと思う。ゆっくり食べれるのでホッとする。 いろいろメニューがあるが、定食類の充実に目を奪われた。 お好み焼きと焼きそばでも食べるつもりで入店したのに心うつろぐ。 結局サイコロステーキ(200g)定食に決めた。850円との表示に値頃感を覚えてのことだ。 注文すると、店員さんが「定食ですか?」と聞いてくるので「ハイ」と答える。 おや?と思いメニューを見返すと、850円は単品での値段だった。う〜ん.....。 定食にすると1050円+税。何の変哲もない旅らしくもない食事に1050円はチト高いかな、 と思ったがその日の食費はそれで全てだからまぁよしとした。
     実際運ばれてくると、ご飯と味噌汁の量がかなり少なかった。おまけ程度。 ご飯をガーッとかっこむのが好きなのでちょっと残念。 サイコロステーキはかなり油っこかったし、ガーリックソースがたっぷりかかっていた。 その日初めて胃にはいるものがそれであるから、胃がビックリしたのだろう、かなりむなやけがした。 ごはんと味噌汁があれば中和できるが、量が少ないのでそれもままならぬ。 残さず食べるのにかなり頑張った。途中思わずトイレに行ったが、なんとか耐えた。 うどんぐらいにしていればよかったな、と後悔する。
     回りは常連さん、そのなかにツーリングライダーひとり。 なんだか店の主人がこちらをちらちら見ている気がする。 無銭飲食を警戒されているのだとしたら残念だ。ちょっとブルーになる。

    ◎みつからない安並温泉
     時刻は20時をとうにまわっている。この日は結構走り回ったので、ぜひとも温泉で疲れを癒したかった。 お好み焼き屋を出て、安並温泉を探す。かんぽの宿は容易にみつけたが、他に公衆浴場のようなものはみあたらない。 看板などもないし、途方にくれながらも狭く暗い路地をバイクで温泉探し。温泉宿などありそうもない。 うろうろしてもみつからず、ついにあきらめた。今思えば、21時前ならばかんぽの宿で外来入浴できたのかもしれない。

    ◎寝床探し
     風呂には入れなかったが、なんとか快適な睡眠だけは確保したい。 お好み焼き屋や温泉探しの途中で結構やんちゃそうなお兄ちゃん達をみていたので、 中途半端なところにテントを張るとからまれるかもしれないし、住民が不審に思って警察に通報するかも知れない。 気温はけっこう下がってきた。とんぼ自然公園というのも地図にあったが、場所的に寒そうなのでやめた。
     お好み焼き屋から温泉を探す途中に、オートキャンプ場の看板をみつけていたのでそこに行ってみることにする。 シーズン外だから、ひょっとしたら管理人不在で無料キャンプができるかもしれないという期待で胸はいっぱいだった。 そううまくいかなくとも、そのオートキャンプ場のあたりは海岸沿いだから太平洋=黒潮=温暖という短絡的発想も行為を援護する。 市街地から県道20に突入、ほぼ直線路を6〜7km走ると「とまろっと」という名前のオートキャンプ場があらわれた。 道からキャンプ場内の様子がうかがえたが、バンガローなどがありきちんと明かりがともされていた。 「ここからは有料です」みたいな看板もこれみよがしにたっていたので、ガックリして引き返す。
     幸いなことに付近にわりと大規模な公園があり、そこの駐車場がなかなか安全そうだったので寝床に決定。 照明のあるトイレもあり安心。いちばん奥まった隅の方に、テントを張り銀マットと寝袋をほおりこみ就寝準備完了。 バイクのヘッドライトで照らしつつ作業を進めたが、ライトを消してみるとあたりは暗闇であった。 ハンドルにヘルメットをひっかけていることを忘れ、バイクを動かそうとしてヘルメットがコンクリートに落下。 ああぁぁ......。とにかく寝床はできた。
     テントに入る。ランタンなどという贅沢なものはないので、仏壇ろうそくを灯してみる。 ろうそく台がないので、スプレー缶の裏にロウをたらして立ててみた。すごく不安定。 いろいろな意味で危険なのですぐやめた。シーツとカバーを併用した寝袋にくるまり、すぐに眠った。
    2000年4月1日記す
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