• 三日目 2000年3月10日(金)快晴

    ◎起床
     目がさめた。周囲はすでにうっすらと明るくなっている。この日も天気に恵まれたようだ。 少し離れたところから、軽トラっぽいエンジン音やオジサン達の話し声が聞えてくる。 公園の清掃作業をする人かなぁ、と思ったが、邪魔にならないところにテントをはっているし、 そばには佐賀ナンバーのバイクをとめているから、そんなに怪しまれもしないだろうと気にしなかった。
    とまろっと駐車場  すぐに起きるのも何だか面倒だし、気温もよかったから、しばらく寝袋にくるまりボーッとする。 ひょっとしたら、地図をぼんやりながめてこの日のルートを考えていたかもしれない。
     しばらくして寝袋をでて、テントの外の様子をうかがう。夜はくらくてわからなかったが、 20mほどむこうに喫茶ルームのようなものがあり、そこに人が集っていた。 えらい朝はやくから営業しているので感心する。
     とりあえず、そばの公衆トイレで歯を磨き、顔をあらって少しさっぱりする。 営業マン風の人とトイレ内ではちあわせしたが、すこしびっくりさせた気がする。
     テントをたたみ、にづくり。昨晩ハンドルにひっかけていて落してしまったヘルメットは、 シールドを帽体に取り付ける際のマウント台のようなプラスティック部品がおれており、 それを帽体にネジ止するネジがおれていた。ちょっとショック。 シールド無しで安全にハイペースツーリングを行なうことなど不可能だ。 かといってバイク用品店が今日のルート上にある確率は未知である。 さいわい、いろいろの補修用に布テープを一巻き持ってきていたのでそれで補修してみた。 意外にガッチリ固定できて一安心。むしろシールドの動きのクリック感がよくなったほどだ。 布テープはほんとに重宝する。持ってきていてほんとによかった。

    ◎とまろっと駐車場〜県道42〜R56〜須佐市
     暖気もほどほどに、とまろっと駐車場をゆっくり発進。県道42に乗るとときどき右手に海がみえる。。 いい道だし、朝ということもあってか交通量は少ない。やや速めのペースで走りきる。 やがてR56に合流。大方町の中心地であるため、交通量は多い。バイクはすり抜けできるから楽だ。 やがて町を抜け、快走路になる。昨晩とは逆車線を走るわけだが、夜よりも流れが遅い。 あまり面白くなかった。距離は結構あるので、黙々と走る。
     須崎市に到着し、真新しい道の駅でトイレ休憩。すぐ出発し、真新しいバイパス路に乗ってみた。 残念ながらこのバイパス路、建設途中で走行可能区間がすぐに終わり、ふたたびR56本線へ。 その後県道23へ入り、県道47を目指す。この県道47、 ツーリングマップルには「2車線 土佐のライダーお気に入りのワインディング」と記してあったので、 ぜひ走ってみたいと思っていた道だ。

    ◎県道47 横浪公園線(土佐ライダーお気に入りワインディング)
     県道23から右折し、県道47へ。すぐに左手に浦の内湾という内海がみえる。 非常に静かな海だが、水は澄みきった美しさを持っていた。 こういう風景は好きだ。長崎県の大村湾も静かでいいが、 浦の内湾はもっと小さいので、より複雑に入り組んだ海岸線や対岸の様子が楽しめる。 盆栽や箱庭が好きな、日本人好みの風景だと思う。水荘園だったか、 沿岸の海上には平屋の建物がところどころにうかんでおり(実際は杭打してあるのだろうか?)いい感じ。 海の上の海の家といったところだろうか、しかし海水浴場の海の家よりは立派な造りで、 おそらくは料亭みたいなことをやっているのだろう。
     さて、道の方はといえば、これがなかなか面白い道だった。 だいたいが尾根のようなところを走るので過激なヘアピンなどは少ないが、 中速・中低速コーナーが連続し気持ちよい。時折直線部もあらわれるので、 急加速やハードブレーキングも楽しめる。景色は最高で、左手には浦ノ内湾の穏やかな日本的美しさが、 右手には土佐湾の豪快なたくましさが味わえる。
     終盤で黒のミラターボに追い付き、しばらく追走。そこそこペースで走ってくれたので、 そんなにイラつくこともなかったがヘアピン手前の直線部で道を譲ってくれたので左手をあげてパス。 サンキュー。どうでもいいことだが、日本の峠道は下りで直線が続くと次はヘアピンと相場が決まっているようである。
     この日は交通量が非常に少なく、同じ車線を走っていたのは先のミラターボのみで、 あとはトラック一台・パトカー一台とすれ違ったことぐらいしか記憶にない。非常に快適であった。 オススメできる。ただし、野球で有名な明徳義塾高校があるようなので、 時間帯によっては高校生が自転車でダウンヒルしていたりするのかもしれないので注意。 なお、全行程はツーリングマップルによれば、16.2km。すこし物足りないかもしれないが、 実は腹八分でちょうどいいのではなかろうか。

    ◎県道39〜高知市
     「土佐ライダーお気に入り」を楽しんだあとは、高知市を目指す。県道39経由でR56。 かわりばえのしない道である。高知市には別に用はない。 本当はずっと海沿いを快走したかったのだが、 そのためには有料の橋を2つも越えなければならないのであきらめたのだ。高知市に入ると、 さすがに渋滞気味だった。路電も走っている。途中、高知城の看板が見え、 せっかくだから行ってみたのだが、人が多かったので遠くからその勇姿を垣間見る程度で終わる。 城のスタイルはシンプルで好きなものだった。
     ところで、よそ者の僕がいうのは変なのかもしれないが高知市の交通マナーは燦々たるものであった。 ほとんどの車両が進路変更にウィンカーはださない、 片側複数車線路で第2車線より中央線よりをのろのろ走る、 クルマがきているのを承知のうえでわき道から強引に合流ししかも流れにのらない、 歩行者のおばさんが4車線路を横断歩道もないのに真っ昼間から小走りに横断する等々、 唖然とした。最後の2つは田舎のちいさな道路でならありそうなことだが、 天下の大通りでこうだからまいった。おもわず笑ってしまうほどだ。 おそらく、それがその地域の昔からの交通パターン・慣習であり、 その下地はそのままに交通量が増え、結果道路が拡張されたためだろう。 交通意識は昔のままで、道路だけが大きくなってしまったのだ。 よそ者がうんぬん言うことではないかもしれないが、 せめて子どもたちには現状にみあった交通教育が施されていることを願ってやまない。
     ウィンカーと言えば、九州でもどこでも、進路変更を始めてからチカチカやりだすドライバーが多数である。 それでは意味が無いと思うのだが。進路変更開始の3秒前というのが教科書通りだし、 それでなにか問題があるだろうか。方向指示は意思表示。「今から進路をこちらにかえますよ」 と予め知らせることに意味がある。レーンチェンジの途中、車線をまたぐ途中にウィンカーを 点滅させ始めてもそれは滑稽ではないか。世の中、自称安全運転ドライバーはたくさんいるが......。
     南国高知だけあって、なかなか暑い。特に冬用グローブは汗でグショグショになる。 ストップ&ゴーの状況からいち早く脱出したかったので即急に市街地を抜けたくなった。 油温もぐんぐん上昇する一方で、シフトフィールは最悪。ニュートラルがでない、 シフトショックがガツン.....。
     R32の知寄町2丁目交差点を右折、県道35にのりかえ海をめざす。県道35線では少し迷った。

    ◎県道14〜R55(室戸方面へ)
     県道14にのった。クルマはまあまあいる。それにしてもペースが遅い。 見通しのいい直線路なのに、大名行列のごとく数珠繋ぎの4輪がだらだら走る。 左抜きしたい衝動にもかられるが何とか抑えた。途中高知空港があった。 空港のそばをバイクに乗って走ると、映画トップガンのワンシーンを思い出す。 気分はトムクルーズ、のはずが県道14のペースが遅すぎて雰囲気がでなかった。
     映画とオートバイといえば、マイケルダグラスと松田優作、それに高倉建が主演の ブラックレインを思い出す。スズキがスポンサーになったので、 スズキのバイクがいろいろでてきて楽しい。大阪の繁華街の裏側みたいなところで、 暴走族にからまれるシーンがあるが、その暴走族がオフ車乗りでえらいテクニカルなところがすごい。 松田優作とダグラスがオフ車でチェイスするシーンも見物。
     しばらくするとR55に乗ることになる。室戸までずっと海岸線もしくはその付近を走ることになる。 さすがに高知市に近いこともあってか、交通量が多い。しかもペースがおそいので楽しくなかった。 たとえば、初日に八幡浜付近で渋滞に巻き込まれたときは、「これがこの土地の生活ペースだ」 などと納得して楽しむことすらできたが、見通しのよい直線路をここまでだらだらペースで延々と走られるとしんどい。 信号があればすり抜けして先頭にたつこともできるが、信号が少ないし、 たまにあって先頭にたってもすぐに別の集団に追い付いてしまう。 あまりたのしくなかったからか、景色すらあまり覚えていない。残念。途中日石で給油したことは記憶にある。 そういえば、焼き肉食べ放題の店があった。なんと男性1000円。スープとご飯もついてくるようだ。 腹が減ってはいたので、一瞬その気になったが、一人で食べ放題の店に行くのもなんだか寂しかったのでやめた。 もし、三隅(同じ研究室の人、VFR乗り)が一緒にいたら迷わず入っただろうな〜、なんて考える。
     走っても走っても流れは悪いままなので、ムスッとした顔で室戸市に入る。 ツーリングマップルには地元スーパーの鰹のたたきをすすめてあったが、 季節が違うので見向きもしなかった。戻りがつおの季節になら行く価値があるかもしれない。 でもあの大名行列に巻き込まれると思うと躊躇するだろう。

    ◎室戸スカイライン
     R55から室戸スカイラインにのる。ここはよかった。この時は交通量ニアリーイコールZERO!!! 室戸岬がある半島の尾根をグングン走る。景色がどうこういうことは覚えていないが、 とにかく走って楽しかった。後半には急な下りとヘアピンが楽しめる。とにかく楽しい。 それまでR55でたまり続けたストレスを一気に発散!!!もう最高。今日2回目のもう最高。 でも詳しいことは忘れてしまった。言葉足らずで申し訳ない。

    ◎室戸岬
     アッという間に室戸スカイラインを駆けおりるとR55に合流、すぐに室戸岬の標示があらわれた。 案内所のような場所の小さな駐車場にバイクを停めた。よさそうな飲食店はみあたらないし、 弁当屋もない。あるのは自販機。ありがたいことに、清涼飲料水の自販機とともに、 カップヌードルの自販機も設置されていた。
     とりあえず、ロング缶ジョージアを買って、岬の方へ行ってみることにした。 断崖絶壁の足摺岬とは違い、室戸岬は乱礁というのか、岩礁が2次元方向に広がっていた。 天気は非常によいので、海も青く素晴らしかった。冷えたジョージアがうまい。
     腹が減ったので、先ほど見つけたカップヌードルの自販機のほうへ足を運んだ。 200円をいれてボタンをおせば、コンビニに売っている状態のカップヌードルがでてくる。 包装フィルムをとり、蓋をあけて、自販機にある給湯口からお湯を注ぐシステム。 割りばしもちゃんと自販機のポケットにストックがあった。
    これぞ貧乏旅行  少ないながらも他に観光客はいるので、カップヌードル2000プレミアムを手にして 多少気恥かしい思いをしながら海の岩礁の方へ歩く。よさそうな岩に上り、座り込む。 写真を撮って、しばらくぼんやり海をみつめた後、少しのびたヌードルをかっ込んだ。 腹がえらく減っていたし、なにしろ爽快な海辺のもとなので非常にうまかった。
     食べ終わって、容器を捨てに駐車場の方に戻る。 その後買ったアクエリアスレモン片手にタンクバックの地図を確認していると、 道路の向こうから自転車乗りのオジサンに声をかけられた。いろいろと話をしたが、 60歳近いと思われるそのオジサン、東京からきたそうである。 一月に東京を出発、宿に泊まりながら、1日40km程のペースで走っているとか。 愛車のマウンテンバイクに目をやると、意外に荷物が少ない。聞けば、衣類は使い捨て、 宿泊だから、かさばるキャンプ用品も必要ないそうだ。自転車の防犯登録ステッカーには、 田園調布の文字があったが結構お金に余裕がある人なのだろう。 それまで一生懸命働いてこられて、その後こうやってきままに贅沢な自転車旅行をするのもいいかな、 と思った。お疲れ様でした。
     ほかにも、しまなみ海道の自動車専用道路を自転車で走ってしまい、 黄色ランプを光らすクルマにおこられてその後おりるまでうしろについてもらった話、 京都がお気に入りで1週間滞在した話など、いろいろきいた。
     お互いに記念写真をとりあっていると、CB400に乗るにいちゃんが輪に加わってきた。 広島の人で、就職前にちょっと走っているとのこと。しばらく3人で話した。田園調布のおじさん その後解散になったが、CBのにいちゃんのルートを聞けば、僕と逆方向。 いまから室戸スカイラインを走るとのこと。何かの縁だし、 室戸スカイラインは僕も気に入っていたし、 そこの展望台にはさきほど行きそびれていたから、スカイラインの展望台まで短い間だが一緒に走ることにした。

    ◎室戸スカイライン再び(リバース)
     室戸岬でしばらく時間を過ごしたので、エンジンはやや冷えていたが、 CBのにいちゃんが一緒なのでのんびり暖気するわけにもいかず、とりあえず出発した。 僕はCBのにいちゃんに先行してほしかったのだが、お先にどうぞ、のジェスチャーをされたので前を走る。 岬に沿った道を少し走った後、右折して室戸スカイラインに入る。いきなり結構な急勾配なので、ナナハン優位。 あまり飛ばすと感じ悪いかもしれないし、かといってのんびり走ってイライラさせるのも嫌だし、 ちょっぴりだけ面識のある人と一緒に走るのは難しい。とにかく、ミラーで後方をチラチラ確認することで、 離しすぎないような、近づきすぎないようなペースを保った。
     すぐに展望台にたどりついたので、スローダウンしてCBのにいちゃんを見送る。 こういう別れ際に、左手をかるくあげて会釈する行為が好きだ。「じゃ、お気をつけて!」って感じ。 でもピースサインは恥ずかしくてまだしきらん(博多弁)。
     別れ際、CBのにいちゃんは結構な加速とともに過ぎ去っていった。お別れしたことが残念。 もっと一緒に走ればよかったと思った。
     展望台に行ってみたが、そんなに感慨深くもなれなかった。岬を向いたときに、左右に海があるような シチュエーションに期待していたのだが、あまり感じるモノがない。感受性が鈍ってきたのか?
     写真を一枚撮ってすぐに展望台をおりた。もう少し展望台が高いところにあれば岬の先端部分がよくみえて楽しかろう。 もちろん、そんなものを造っては景観をそこなってしまうが。
     再び走り出す。なにかの間違いでCBのにいちゃんに追い付けないかとがんばったが当然無理だった。 この道は、岬に向かう方向が楽しいもよう。行きの時のほうが楽しめた。岬向きのときの最後の下りとヘアピンは強烈。

    ◎県202〜土佐東街道(R55)
     室戸スカイラインを走り終えると、県道202という岬バイパス路を走る。 今となってはこの道のことを全然覚えていない。と書いているうちに少し思い出した。 おぼろげに。と思ったけど、やっぱりだめだ。
     202はすぐに終わり、R55で土佐の東側を走る。広めの白破線2車線路。 ほとんどの部分が直線で、これはもう高速道路状態。 しかし、ツーリングマップによればこのあたりではスピード違反の取締りが頻繁に行なわれている模様。 ビビリながら法定+αでのんびり走る。佐田岬メロディーラインは景色が素晴らしかったのでのんびり走っても 楽しかったが、この土佐東街道は右手に太平洋がみえるのみ。 しかもこのときあたりから空は厚めの雲に覆われてしまって、ゆっくりはしるとあまり爽快でもなかった。
     いかにも取り締まりをやっていそうな道路だったので、なるだけ飛ばしたくなかったが、 202から55に出るときの信号待ちで抜いたスプリンターみたいなのが100km/hペースで追ってくる。 抜かれるのは嫌いなので、しかたなくペースをあげた。まったく子どもだなぁ。
     ほんとうにつまらない道だったが、スプリンターとじゃれ合うことで多少は印象深い道になった。 動力性能で圧倒的に優位なので気が楽である。とはいっても、 ほぼ直線の道なんて飛ばしてもすぐに飽きて退屈なだけなのだが。距離にして40kmほど走ったところで、 竹ヶ島という看板に目をひかれ、小道に右折。美しい風景をバックにバイクの写真を撮りたかったのだが、 天候もよくなく、ピンとこなかったので結局引き返した。
     再びR55。この辺りからは民家もふえてきて、交通量もやや増した。そういえば竹ヶ島を過ぎた辺りからは徳島県だ。

    ◎南阿波サンライン
    海南町、牟岐町ときて、牟岐駅付近から「南阿波サンライン」の愛称をもつ県道147に入る。 この道はツーリングマップルのオススメルートにあたり、ツーリングの計画の段階からかなり期待をしていたルートの一つだ。 R55から147に入る際、とくに目立つ標識など存在しないので気をつけないと見落としてしまう。 僕は一度素通りしてしまった。
     サンラインに入ると、濃いオレンジ色の中央線がハッとさせる存在感を持っていた。 路面状況は良好。2車線路だが、道幅は十分。最初はゆるやかな登りでほぼ直線路。このとき、 地元の軽トラがゆっくり走っていたが、白破線ではないので追い越しができず、 かなりあせったが、じきに脇の小道へ曲がってくれた。いざアクセルオン!!  詳しいことは失念してしまったが、とにかく走って楽しい道だった。 タイトなコーナーも連続するが、路面状況がいいのでペースはかなりあげられる。 わざと2〜3速でレッド近くまでまわして遊んだ。燃費には悪いが、普段高回転域を使うのは長い直線部分ぐらいで、 レッド近くでタコメータの針を頻繁に上げ下げすることはないので、エンジンのアタリをつけるのにもいいかと考えたわけだ。
     路面はドライだが、曇りで見晴らしがよくないので、景色はあまり楽しめなかった。しかし、交通量は激少。 同方向に向かう車両に遭遇したのは入り口付近の軽トラ一台のみ。対向車線をすれ違ったのも3台程度だ。 サンライン沿いには集落などみあたらず、すぐ平行してR55という広くて真っ直ぐな道路が通っているので、 平日のサンライン交通量はいつでも少ないはず。休日などには、多勢の四国ライダーが集まるのではなかろうか。
     後半の展望台に写真を撮るべく向かってみたが、天気がさえないので風景もあまりパッとしなかった。 この展望台の崖下には、潮吹岩といういわくつきのものがあったが、波が穏やかだったので、 潮吹などという豪快な現象にはお目にかかれなかった。残念。波が荒いときには、相当高く潮を吹くらしい。
     せっかくだから、写真を数枚撮り、サンラインへ復帰。このあたりは結構な下りだがコーナーは緩やかになるので、 のんびり流した。潮吹岩、ひょっとしたら記憶違いで、サンライン沿いではなかったかもしれない。 とにかく、平日の南阿波サンラインは走りがオススメ。

    ◎大浜海岸〜県道25〜県道26(伊座利峠)
     サンラインを走り終えると、次もR55ではなしに県道25号線を選択。 県道25をいくと、大浜海岸という海ガメの産卵地として有名な海岸があるので寄ってみた。 しかし、やはり天候が悪いからか、景観があまりよくない。四六時中海ガメがいるわけでもないので、 すぐ立ち去る。後ろを地元のフェアレディZが元気よく走っていたので、ちょっとびびったが、 じきにZは海ガメ博物館みたいな施設に入ったのでホッとする。
     さて県25を突き進む。実はあまり覚えていないのだが、ツーリングマップルには 「屈曲の1車線峠越 ときおり展望」と書いてあるので、きっとそういう道なのだろう。 まだ元気があったので、狭路もそれほど苦にせず楽しんだと思う。みかん畑のような中を走った気がする。 カローラ2が進行方向右側に寄って道を譲ってくれたことが印象深い。 そして由岐町中心部で県道26に乗り換え。今思えば、このルート選択、間違っていたかもしれない。
     県道26は狭い一車線路。路面状態がそれほど悪くないことが唯一の救い。 海沿いの複雑な地形に沿って道がのびるので実走距離は直線距離を遥かにうわまわる。 走っても走ってもほんとにきりがない。というか、飽きる。よほどの狭路マニアでないとつらかろう。 途中分岐があるが、標識もないので一発勝負。運よく僕は正しい分岐を選んだ。交通量はやはり少ない。 途中、青年の乗ったカローラレビンがゆったり走っていたぐらいで、あとは対向車が4〜5台。 30km近い道程を走ってこれなのだから、まさに激少。これぞ四国ロードか。凄すぎる。
     伊座利峠を越えると、結構な下り勾配になり、ありがたいことに道のタイトさも幾分解消された。 ここで前に立ちふさがったのが、かなり年輩の方が運転される白のセダン。車名は忘れた。 かなりお年を召されているようだが、その割にはペースが速い。時々タイアが鳴く。 が、しかし、危なっかしい!!フラフラしているし、時々まがりきれなくなって、 急ブレーキをしてライン修正している。べつにあおっているつもりはなく、そこそこの車間をあけていたのに、 なんだか意識されているみたい。「若いもんに負けてたまるかい!」というつぶやきが聞えてきそう。 その気合いが空回りして崖から落ちていったらいかんな、と心配しながら後ろを走り続けた。 途中エスケープゾーン的な場所もいくつかあったが、譲る気配もなかったし、 お年よりに恐い思いをさせるのも嫌だったので、おとなしく後ろをついていった。
     だいぶ下ると、県200との交差点があり、おじいさんは左折、僕は右折して阿波水軍の遺跡というところに 行ってみることにした。遺跡はともかく、「昔の雰囲気の町並み」と地図にかかれたフレーズにひかれたのだ。 行ってみると、特に椿川の河口付近がよい感じだった。どうよいか、忘れてしまって申し訳ない。 日がくれそうなので、あまり深入りせずに県26へ引き返した。

    ◎北の脇漁港
     26へ引き返して、しばらくのんびり走ればR55に復帰した。阿南市の中心部に向かうにつれ、 渋滞気味になる。湾岸沿いに、工業団地が不気味な存在感をもって広がる。 その雰囲気を感じながらひたすらすり抜け。太陽はあと数十分で完全に沈んでしまいそうな気配だ。 夕暮れを小さな港で楽しみたかったので、阿南工高専を過ぎて見能林駅の交差点で海方向に右折。 ひたすら真っ直ぐ海をめざした。田んぼをつっきると、密な港町に突入。 せまい通りが味わい深くてよい。そして漁港についた。ちいさなちいさな漁港。 人の気配はほとんどなく、静かだ。このあたりは波は凪ぎていど。ほっと一息つくのには丁度よい。 堤防にバイクを乗り入れ、その中央部でエンジンをとめた。
     夕陽はべつにかわりばえしなかったが、この日は雲がきれいだった。 昔誰かが言ったように、空は日が落ちてからがうつくしい。 ぼんやりとした、ほのかに赤みがかった夕暮れの空は、まさに日本の美しさ。 みて飽くことがない。北ノ脇の夕暮れ というよりも飽きる前に闇が訪れるのだから、そこには桜に通じるはかない美しさがある。 写真を何枚もとって、取り回しによる方向転換後に出発。 さすがに堤防の上でUターンする勇気はない。 漁協の事務所みたいなところの看板をチェックすることで、 地名を知ろうと思ったがよく見えずにわからなかった。その後、どこでわかったかは忘れたが、 「北の脇」と判明。地図にチェックを入れた。
     再びR55に向かう。途中の田んぼ道だが、ここにバイパスが建設されているようだ。 開通式も間近らしい。

    ◎温泉・食べ物屋探し
     この日は室戸岬でカップ麺を食べたのみだったから、腹も減ってきた。 R55沿いを北上しながら、食べ物屋を物色するがパッと見た感じピンとくるものがなかった。渋滞もひどい。 いつありつけるかわからなかったから、頭を切り替えて風呂に入ることを考えた。 昨日は、けっこうハードな道を走ったのに温泉にありつけず大変心細い思いをしたから、 この日はどうしても風呂に入りたかったのだ。地図をみわたすと、 R55を少し戻ってからのR195沿いに鷲敷温泉という温泉を発見。銭湯並み料金らしい。 大歓迎である。この温泉を目指しながら、R195沿いに食べ物屋も探すことにした。
     R55を阿南駅あたりでUターン、南下して県286経由でR195へ。 県286へ入ったとたんに、街灯や民家がなくなり闇が深まる。 食べ物屋さんなど果たして巡り合えるのかしら、と不安になった。 最悪、温泉さえ入れれば食事は阿南市のコンビニで済ませばよいので、とにかく温泉を第一に考えた。 夜のR195はやはり結構流れが速い。普段なら歓迎すべきことだが、 流れに呑まれて温泉の所在をあらわす看板など見落としはしないかと不安になった。 なにせ真っ暗闇だから、照明なしの看板では見落とすこと必至である。
     まず、「道の駅わじき」を通過。ちいさな道の駅だ。地図と照らし合わせ、 現在地と鷲敷温泉との相対関係を確認する。見越し運転で、温泉を通りすぎることは避けたかったので、 こまめに地図で現在地をチェックすることにしたのだ。
     流れははやいのに、感覚的にはなかなか進まない気がする。はやく到着せねば、営業時間が終わってしまう! あせるあせる。しばらく走ると、右手にローソンがみえ、道の両脇に民家や商店の軒が並び始めた。 温泉街といってもよさそうな雰囲気だったが、商店の灯りは消えているし、温泉の看板は見あたらない。 この辺りなのか、違うのか、はっきりしないのでさらに不安になる。
     しばらく走ると、民家や商店は減少し、さみしい様相になった。 突然、横道から爆音ゼファー2台が確認もろくにせずでてきて、たらたら走り始めた。 やんちゃなノーヘル少年達に行く手を阻まれている暇はないので、ざざっとごぼう抜き。 抜かれた2台はちょっとビックリしているようだった。 追いかけてこられたら面倒なのでちょっと飛ばして距離をとった。 すると、目前に大きな橋が現れた。地図で現在地を確認するのによい目印なので、 バイクを小道に入れて停めた。この橋のかかる川は那賀川らしく、鷲敷温泉まではもう少し距離がありそう。 まったくもって四国の道は地図で見るより距離がある。とにかくこの先にあることが確実なので、 気力が湧いてきた。左手に消防署がみえたその直後、蛍光灯で内側から照らされた「鷲敷温泉」の看板がとうとう現れた。 とにかくうれしかったが、営業時間が終わっていたら話にならないので気を抜けない。 小道にはいると、沈下橋のような橋を渡る。その後、ちょっとしたダートを走って左折。 この辺りでは道路工事が行なわれており、現場の照明に照らされたオジサン達が10人ぐらいいた。 そして、しばらく走ると、とうとう「わじき温泉」を発見!温泉街ではなく、民宿風の一軒宿といった感じだ。 駐車場にはツーリングの自転車が数台、クルマも数台駐車されており、館内の蛍光灯もあかるく灯っている。 洗面具とタオル、それに着替えと貴重品を詰め込んだタンクバックだけを持って、玄関をくぐった。

    ◎わじき温泉で入浴
     フロントのようなところには、誰もいないので、「すいませ〜ん」と声をかけると、 奥からおじいさんがでてきた。城南電気の故宮路社長のような雰囲気を醸し出す、人の良さそうな老人だ。 入浴だけお願いしたい、と申し出ると、「350円」と言われた。 安い、ありがたい。営業時間を聞くと21時までだという。 この時まだ19時前半だったので、これはゆっくりできるな、と幸せになった。
     風呂場に向かう。脱衣場に入ると利用中の脱衣かごが結構多く、なかなかの人の気配を感じる。 若い青年の声も風呂場にこだましている。服を脱いで、浴場へ。
     そんなに広くもないが、むしろちょうどいいサイズだ。あまり広い風呂は、話題作りになるが落ち着かないものだ。 某俗化した観光地の100畳の露天風呂に入ったことがあるが、やはり落ち着かなかった。 これはもはや個人の好みの問題であるかのかもしれないけれど。
     シャワーを全身に浴びせると、ほんとうに気持ちよかった。前日温泉には巡り合えなかったけど、 この気持ちよさもそのおかげかな、と思う。全身をよく洗った後、浴槽につかる。 結構熱い。指先がひどくピリピリする。泉質というのもあるだろうし、 冬用グローブが蒸れて指先がふやけたことが大きいのだろう。
     同じお湯には、自転車乗り数人が入っていた。大学生ぐらいだろうか。話を横で聞いている感じでは、 それぞれは見ず知らずの他人で、旅先で偶然知り合い、その日の風呂を共にしているようだった。 苦労の多い自転車乗りだけに、連帯感も大きいのだろう。本物の連帯感。ちょっぴりうらやましい。
     せっかくの温泉、なるだけ長くつかっていたいから、一度あがって水を浴びることにする。 風呂からあがると、立ちくらみのようになってフラフラした。バタッと倒れそうで危なかった。 冷水シャワーを浴びてまた風呂へ。水風呂につかる手法もあるが、なんだかこわくて実行できない。 湯船に肩までつかり、熱さにのぼせて耐えられなくなったところで風呂からあがった。ほかの青年達はまだ入っている。 頑強な男は風呂の長さもすごい。
     服をきて、ロビーのようなところのソファーに座る。テレビではクレヨンしんちゃんをやっていた。 のどが乾いているので、迷わずモルツビールを300円だして買う。 プシューッと栓を開けてひとりで乾杯。つまみもなにもないけれど、うまいビールだった。
     ぼんやりテレビをみていると、青年達がやってきた。話したくないわけでもないが、 シャイなので独りの世界をつくってしまった。ツーリングマップを開き、 今日のルートを振り返りそして明日のルートを検討する。20時台になり、 テレビでは歌の大辞典みたいな番組をやっている。別になにをするわけでもなくぼんやり過ごすだけだが、 ヘルメットやグローブといった鎧を外し、 刻々と変化する路面状況に神経を研ぎすます必要から解放されたというだけで幸せだ。 考えてみれば、ライダーのなんと自虐的なことか。
     20時も半ばをまわると、自転車乗り達は近所のキャンプ場を目指して出発していった。 僕がひとりでぼんやりしていると、50前ぐらいのおじさんおばさんがやってきた。 二人でアイスクリームを食べている。食べ終わるとこちらに話しかけてきたので、 いろいろと話をした。晩飯をまだ食していなかったし、一応その土地のうまいものを食べてみたかったので、 徳島名物を訊ねたら、「徳島ラーメン」を紹介された。どこで食べられるのかを聞いたら、わからないとのこと。 一応気には留めておくことにする。
     おじさんおばさんは出発し、残るは僕だけになってしまった。時計の針は9時をさしている。 営業時間もこれまで。宿の宮路社長似の老人がきて、そろそろ終りだよ、みたいなことを言ってきた。 僕が残念そうなそぶりをみせると、どこに泊まるのか聞いてきたので、 近所のキャンプ場を探すといったら、「ここの駐車場にテント張れよ、キャンプ場は金取られるだろ?」と言ってくれた。 なんでも、よくチャリダーの人達が張っていくらしい。御厚意に甘えて、テントを張らせてもらうことにした。 テントをどこに張るかは、結構悩みの種である。キャンプ場はなかなかないし、海岸だと変な人に絡まれる心配があるし、 寒い場所は寒いし....。とにかく、信頼できる人の敷地内にテントを張らせてもらえることがうれしかった。
     阿南の方へ夕食を食べに行ってから再度訪れると言い残して、とりあえず飯を食いに出発。 夜のR195を阿南方面へ目指した。

    ◎夕食(阿南市・豚太郎)
     阿南市までのルートは先ほど通った道で距離感はつかんでいるし、風呂にも入ったから時間を気にすることもない。 寝床も決まったから、ルンルン気分でR195を駆けおりる。先ほどよりさらに交通量は少なく、快走した。 夕方は県286を経由したが、この時はR195からR55へ直接行った。 R55を北上するが、営業中の店が見あたらない。他になかったので、豚太郎というラーメン屋みたいな店に入った。
     この店、この時間なのに駐車場は満杯。リッターのXJRも一台あった。店にはいると、凄く威勢がよい。 厨房には調理人がずらっと並んでいて休む暇もなく北京鍋を動かしている。メニューを見ると、いろいろある。 野菜が食べたかったので、無難な線をいくつもりで、「チャンポンメン630円」、贅沢して「餃子280円」を注文。 運ばれる間に、目前で勢いよく調理する料理人を観察した。
     この店、凄い。料理人の質が高い。非常に手際よく、無駄のない動きでテキパキと調理していく。 その動きたるや、見る者に感動を与え、芸術的ですらある。文句なしにカッコイイ! 厨房には何人もの料理人がズラッと並んでおり、皆がこのレベルだから壮観たるものである。
     やがて料理が運ばれてきた。チャンポンメンは、ただのチャンポンではなかった。 細目の面で、スープにはとろみがついている。僕には味をうまく表現することはできないが、 素材の味がうまく引き出されており、とにかくうまい!!しかも、あつあつ。 とろみがついているので、なおさらあつい。舌をやけどした。量も多い方。 注文時、大盛りにしようかと悩んだが、普通盛でよかった。餃子もジューシーでうまい。 この店は凄い!!大繁盛するのも納得。
     実は、四国には「豚太郎」と名乗る店が多数ある。これが同じ系列にあるものなのかはよくわからないが、 店構えはだいたい似ている。しかし、店のクオリティーは店舗によって千差万別であるので注意が必要。 別の日に違う店舗に行ってみたが、勢いはなく、味もパッとしなかった。
     阿南の「豚太郎」は絶対オススメできる。
     腹も心も満足できたので、店をでた。トリップメーターをみると鷲敷温泉から24kmほどある。 晩飯を食うだけのために往復50km近くした自分をほめてあげたいが、 なによりも阿南の豚太郎にはそこまでして行く価値があった。いい店に出会ったものである。

    ◎鷲敷温泉駐車場にてテント泊
     豚太郎を堪能した後は、県286経由で鷲敷温泉へ。この道を通るのは3度目。もう心細くはない。 そろそろだな、って予想がつく。消防署があらわれたら鷲敷温泉の看板があらわれ、小道にはいる。 温泉の駐車場へたどり着き、ライトだけをつけてテント設営。
     就寝準備をととのえ、寝袋に入る。明日は雨が降るらしい。それだけが心配だ
     とにかく、今日はいい温泉と晩飯に巡り合った。
  • 2000.4.28記す

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